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パフォーミング・クレジット四半期レポート:現在の貸し手は誰なのか?「パフォーミング・クレジット四半期レポート:二重経済」では、錯綜する経済シグナルが米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策決定力を混乱させていることについて述べました。過去1年間にわたって繰り返し、しかも誤って織り込まれていた利下げが9月にようやく実施され、FRBの利上げサイクルは終焉を迎えました。「クレジット市場:2024年第4四半期において注視すべき主な動向、リスク、チャンス」で後述するように、これによって新たなM&AやLBOの動きが活発化し、新たなマネーを追う上場デットとダイレクト・レンディング市場により多くのローンが供給される可能性があります。引き続き、レバレッジド・ファイナンス市場が新規企業向けローンを易々と吸収する一方で、クレジット市場であまり馴染みのない分野である資産担保融資については資金不足に直面する可能性があります。
従来の貸し手金融機関に代わる新たなキャピタル提供者の台頭は、今やよく知られた話です。世界金融危機(GFC)後、資本規制強化を受けて銀行が企業向け融資から撤退したことで、ダイレクト・レンディングは事実上の主流資産クラスとなっています。これら金融機関がさらなる逆風に直面する中、プライベート・クレジット市場における次なる展開は、資産担保融資(ABF)においても、新たなキャピタル提供者への集中が見込まれると考えています。契約に基づく収入源を担保にした融資は、歴史的に銀行や保険会社の中核事業となっており、資産クラスとしては目新しいものではなく、資本提供者が誰なのかという点に根本的な変化が起きています。銀行にとってはABFのうま味が益々薄くなる可能性がある一方で、保険会社が通常取り扱うのは投資適格ABFのみです。現在5.5兆ドル規模を誇るABFユニバースのうち民間レンダーが占める割合は僅か5%未満と想定されており、企業向け融資、不動産融資、ストラクチャード・クレジットなどの経験を必要とする複雑さを持つABF市場への参入には、大きな障壁が立ちはだかります(図表1参照)。
銀行がもたらすシステミック・リスクの低減を目指す継続的な取り組みは、相次ぐ規制変更からも明らかです。これら取り組みの中でも最も影響が大きいのは、銀行に対する自己資本増強の義務付けであり、これにより銀行の流動性水準が改善されるものの、ROEは低下します(図表2参照)。なぜなら、自己資本は銀行資産(すなわち貸出残高)に対する割合として測定されるため、銀行資産の拡大につながる事業に関しては、慎重な検討がますます必要になるためです。重要なのは、資産基盤がリスク加重ベースで計算されるという点です。つまり、中小企業向け融資や個人債務者からの返済に対する融資などリスクが高くなればなるほど、銀行はより多くの資本を保有する必要があるのです。
GFC以降、主にバーゼルIII協定を背景に制定されたこれら新規規制の導入は着実に進んできましたが、バーゼルIII最終化という形で、間もなく最終段階を迎えます。これはバーゼルIII規則の集大成を意味するもので、米国大手銀行の遵守期限は2025年、その後3年間の移行期間が設けられます。最も厳格なルールが適用されるのは最大手、つまりシステム上最も重要な銀行であり、米国大手37銀行が資産1,000億ドルの基準案を満たすことになりますが、これは米国内銀行全資産の75%超に相当します3。
バーゼルIII最終化では、資本要件の引き上げとともにリスクアセットの計測における内部格付手法の利用が制約され、事実上、自行推計値よりも標準的手法が優先されることになります。ABFユニバースでは一般的である無格付アセットについては、本来のリスクに関わらずリスクウェイトは100%が適用されることとなり4、銀行は過大な資本を保有する必要が生じることから、ABFは銀行にとって妙味の低い融資となる可能性があります。
規制資本の増加は、量的引き締めによる圧力、そして実店舗小売業の衰退やオフィス空室率上昇など、銀行が直面する業界特有のストレスに拍車をかけるだけです。
銀行レンダーにとって新たな課題のひとつは、預金の信頼性低下です(図表3参照)。銀行融資は満期が長いケースが多いのに対して、預金はほぼ即時に引き出しが可能です。資本の安定的な確保に向けて流動性を制限するプライベート・クレジットの貸し手にとって、この点は心配の種ではありません。銀行が顧客預金の一部を準備金として留保、残りを貸し出す部分準備銀行制度の慣行に基づくと、預金の減少は当然、貸出活動の減少につながります。
2023年の米国地銀危機は、このモデルに内在する流動性リスクを浮き彫りにしました。ニュースの見出しを飾ったのはシリコンバレーバンクで、金利上昇に伴って価値が低下する長期債投資を通じて、預金資金を貸出に回していました。顧客が預金引き出しに走った結果、資産と負債のミスマッチが最終的に致命傷となったのです。こういった不安定な状況を踏まえ、銀行はABFに関連する低流動性の低い融資に際して、より慎重になっています。
この結果、融資事業の一部ではうまみが更に薄れており、この流れが終わりを見せる様子もありません。資本要件の厳格化を受けて銀行は、(a) 貸出事業の焦点を再び大手(そして最も安全な)顧客層に絞り込む、(b) 手数料収入と預金積み上げが狙える貸出案件に注力するようになっています。銀行の総収入に占める貸出事業の割合は、2019年の26%から2023年には21%まで低下すると推定されています5。米国では、銀行貸出がGDPに占める割合はGFC以降で10ポイント近く低下しています(図表4参照)。
オルタナティブの(従来とは異なる)貸し手にとって、銀行における注力事業のシフトは何を意味するのでしょうか?重要なポイントは、ABF分野において、オルタナティブ・レンダーは主流のダイレクト・レンディング分野ほど台頭していない、という点です。銀行が法人向け直接融資から撤退し始めたのは相当前のことであり、レバレッジド・ファイナンス事業者が同事業の延長線として直接融資に参入しました。現在、多くの企業は上場シニアローンとプライベート・ローンの両方を発行しており、これらのデュー・デリジェンスには重複する部分が多くあります。プライベート・デット市場で引き続き優勢なのは直接融資の貸し手であり、投資待機資金の総額は2,000億ドル近くに達しています6。これに対して、ABFは多くのマネージャーにとって参入障壁の高い新たなフロンティアとなっています(図表5参照)。
ABFの中で最もプレイヤーが少ないのは、シニアの投資適格とオポチュニスティックの中間に位置する「コア」部分だとオークツリーでは考えています。ABFの中で最もリスクが低いと考えられており、期待リターンが最も低い投資適格の部分は、保険会社やその他投資適格に特化したABFプラットフォームによってサービスが十分に提供されています。米国の保険会社は、現預金と投資資産の合計で8兆5,000億ドル7を保有しており、ABFからのキャッシュ・フローに価値を見出していますが、資本構造上の優位性を維持するために投資適格であることが規制要件となっています。ほとんどのABFパッケージにおいて、投資適格の格付けが付与されるのはシニアのみであり、メザニンやジュニアの融資はその他プレイヤーがサービスを提供する部分となります。加えて、多くの取引で格付けが全くサポートされていません(例:格付機関の基準にマッチしない短期借入枠など)。要するに、保険資本では銀行の融資撤退によって空いた穴を埋めることはできないのです。
一方、プライベート・エクイティ(PE)、オポチュニスティック・クレジットの投資家、スペシャリティ・ファイナンスのプラットフォームは、ABFのコア部分から一般的に得られる水準を上回る高いリターンを求めています。その結果、保険会社や銀行といった従来のシニアレンダーが対応できない、または手を出したくないABFのコア部分においては、重要な資金の提供者としてオルタナティブ系の貸し手が登場してくると予想されます。
多種多様なセクターの中から、ABF市場の進展において中心核となるであろう3つの分野をご紹介します。
(1) 航空機リース:供給先細り
2019年以降、ボーイング、エアバス、プラット・アンド・ホイットニーといった主要メーカーでは、製造遅延や品質管理上の問題が主な原因となり、航空機の生産が大幅に減少しています(図表6参照)。これにより、前例のない受注残が発生し、航空機リース料が上昇しています。
世界の航空交通量は今や新型コロナ以前の水準を超えており、航空機メーカーは増加する需要に対応できていません。航空機の新規供給が極端に限られているため、航空会社は理想的な機材計画を差し置いて、リースや中古機材の購入を優先せざるを得なくなっています。
現在の需給不均衡は2030年あるいはそれ以降まで続くと予想されており、十分な資金を持つ投資家が市場に参入し、実績のあるプラットフォームやオリジネーターに融資を提供する絶好の機会が提供されているとオークツリーでは考えています。
(2) シンセティック・リスク・トランスファー(SRT):米国上陸
シンセティック・リスク・トランスファー(銀行が投資家と契約を締結し、投資家がクーポン収入と引き換えにローン複数の将来的な損失リスクを引き受けること)を活用することで、資産売却をせずに、売却によるバランスシートへの影響を受けることなく、リスクの「売却」が可能になります。銀行の多くは、2009年から2021年にかけた歴史的な低金利時代に積極的に融資を実行しており、これら銀行のバランスシートは今や低金利・長期デュレーションの資産で埋め尽くされています。
現在のような高金利環境下でこれら資産を売却したならば、会計上の資本損失が発生し、自己資本比率や市場の評価に影響が及ぶばかりでなく、借り手との関係も危うくなる可能性があります。資産売却の「費用」を複数年かけて効果的に償却する手段として、SRTを利用する銀行が増加しています。
2023年に欧州で発行されたSRTの規模は、米国の10倍超を記録しています8。米国市場はこれを急速なペースで追い上げると見込まれており、2024年における発行は前年比4倍増となる見通しです(図表7参照)。さらに、企業向けローンや融資枠のようなシンプルなSRTの入札は過当競争となっていることからも、専門的な知識を必要とするニッチな資産において最も魅力的なSRTの投資機会が提供されているとオークツリーでは考えています。
(3) 消費者クレジット:貸し手の流出
無担保消費者金融セクターは、堅調な業績、オリジネーションの急増、安価での資金調達を2年間にわたり謳歌した後、2022~23年にパフォーマンス悪化に直面しました。この失速は主に、信用力の過大評価、新型コロナ関連の景気刺激策を適切に処理できなかった機会学習モデル、高インフレが引き金となっています。この激しいボラティリティの後に、多くの資本提供者が同分野から完全に撤退しました。
パフォーマンスの悪化を受けて、クレジット業者は信用引受基準を厳格化し、年率金利を引き上げたことから、パフォーマンスが改善し始めており、新規投資により有利な見通しが形成されています。
無担保消費者金融の分野では、対面(例えば、店舗、医療機関、または販売時点)で融資されたローンは、オンラインまたは非対面で発行されたローンよりも、はるかに高いパフォーマンスを上げています。これらローンは通常、債務整理や裁量的支出などの目的で利用されています。従って、消費者金融業者に対する融資や消費者ローンをまとめて割安に取得する際には、対面で発行される、必要不可欠な支出に充当されるローンを選好すべきであると考えます。
ABFが、銀行と保険会社が席巻する資産クラスから、投資可能なクレジットのオルタナティブ資産クラスへと変貌を遂げるなかで、資金調達のエコシステムでは、恒久的かつ長期的な変化が生じつつあるとオークツリーは考えています。銀行が貸出基準を大幅に緩和し、失った市場シェアを取り戻すことは当面ないと考えられることから、保険会社はリターンが低めの投資適格ローンに重点を置き続けると予想されます。従って、資産担保金融は短期的な機会ではなく、むしろプライベート・クレジットの次のフロンティアであると考えます。
但し、ABFを均質で容易にアクセス可能な資産クラスだと考えるべきではありません。経験豊富なマネージャーであればリスク管理が可能ですが、同資産クラスの複雑さを理解していない、あるいは十分なデュー・デリジェンスを実施していないマネージャーは、火傷を負うリスクがあるからです。
(1) 利下げ開始にもかかわらず不透明な米国の金利動向
2024年9月、FRBは50bpsの利下げを実施し、フェデラルファンド金利(FFレート)は4.75~5.00%の新たな目標レンジに到達しました。これにより、2022年3月に始まった利上げサイクルは終了し、期間中の利上げ幅は525bpsとなりました。なお、9月の利下げは市場参加者によってほぼ織り込み済みであったため、国債利回りへの影響は限定的でした。
多くの市場参加者が積極的な利下げを織り込む中で、その期待を何度も裏切った末にやっと実施されたFRBの利下げは、長らく渇望されていたものでした(図表8参照)。デュレーションのエクスポージャーを通じてパフォーマンス向上を狙うクレジット投資家は不満を隠せませんでしたが、一方で、ベストリターンを叩き出したのは、シニアローンやストラクチャード・クレジットなど、金利感応度が限定的な高利回り資産でした。
この大幅な利下げ後、10月初めの米雇用統計は異例の結果となりました。9月の非農業部門雇用者数は25万人以上増加し、コンセンサス予想の約14万人を大きく上回ったのです9。米国労働市場の底堅さが確認され、金利動向をめぐる不透明感が高まったことで、国債利回りが上昇しました。
積極的な利下げに大きく賭けていた投資家にとって、またもや納得しがたい展開となりました。ハワード・マークスがよく語るように、投資家は常に市場サイクルのどの位置にいるのかを意識すべきですが、決してマクロ経済の予測に基づいて賭けをするべきではありません。
(2) M&AおよびLBO案件の増加をサポートする良好な環境が形成
主要なレバレッジド・ファイナンス市場は、例年の夏枯れを経て、今年第3四半期後半に大幅な伸びを記録しました。シニアローンとハイイールド債の9月の発行額は1,400億ドルを超え、2023年同期比で70%増という好調さを見せています10。
プライベート・エクイティのスポンサーによる投資のエグジット先が限定的となってきたことから、過去2年間におけるデットの発行は借り換えが中心となっていました。幅広く知られている通り、歴史的な金利上昇に続く資金調達コストの上昇、エクイティ評価の頑強な高止まり、経済成長への懸念、そして最近では2024年の米国大統領選挙をめぐる不確実性など、LBOやM&A活動は逆風に直面してきました。
こうした課題の一部は、足元で和らぎつつあるようです。金利は高水準が維持される可能性が高いものの、9月のFRBによる利下げは利上げサイクルの終わりを告げるものでした。これ同時に、力強い労働市場データと驚くほど回復力のある個人消費を受けて、経済見通し(特に米国)はより堅調に見えます。もう一つの要因は、LP投資家が運用者に現金化を迫っている点です。最近ではPE投資の保有期間(中央値)が7年を超えるなど、クローズドエンド型ファンドからの払い出しが先延ばしとなっており、LP投資家が投資案件のエグジットを求めている状況です11。
これに伴い、M&AとLBO分野にも活気が戻りつつあります。重要な点は、今年第3四半期におけるリファイナンス以外のローン発行額が2022年第1四半期以降で最高値を記録したことです(図表9参照)。さらには、同期間におけるLBOの資金調達額は、シンジケート・ローン市場を介した調達額がダイレクト・レンディングを上回りました12。このシフトは、CLOを中心とした莫大な投資家需要が主な要因であり、これを受けて上場市場では資金調達コストが低下しました。米国の選挙を巡る不確実性が取り除かれれば、M&AとLBOの新たな波が到来する可能性があると予想されます。
(3) プライベート・デットのデフォルトは引き続き限定的、ただしPIKには注意
プライベート・デット市場のパフォーマンスは2024年も好調を維持しており、事業開発会社(BDC)の年初来リターンは10.7%と非常に高くなっています13。今年に入りデフォルトが増加しているものの、足元のデフォルト率は2.0%と管理不能な状況には至っておらず、シンジケート・ローン市場のそれを下回る水準にあります14。
プライベート・デット市場がこれほど活況を呈している理由は何でしょうか?第一に、驚くほど底堅い個人消費が企業の支えとなっています。第二に、スポンサーが投資先企業のコスト削減に積極的に取り組み、原材料価格の上昇分を最終消費者へと転嫁してきたことが挙げられます。これらのスポンサーはまた、金融機関と協力し、潜在的な流動性の問題に迅速に取り組んできました。
しかし、貸し手が注意すべき理由が幾つか存在します。利下げの軌道に関する市場コンセンサスは野心的過ぎたという事が分かっており、変動金利債の発行体は以前の予想よりも長期にわたり借入コストの上昇に晒される可能性が高くなっています。中堅企業のEBITDA成長率が鈍化していることを考えると、利払い能力に対する圧力がさらに増す可能性があります。
借り手がこうしたプレッシャーの影響を感じ始めるにつれて、従来とは異なるオルタナティブな資金調達方法へのシフトが確認されています。最も顕著なのは、現金での利払いに代えてPIK(繰延利息)を使用する借り手の増加です。例えば、BDCにおいてPIK収入が占める割合は2023年以降200bps近く上昇しています(図表10参照)。これは、借り手における流動性への圧力緩和に働きますが、貸し手にとっては(a)定期的な現金払いという収入源を失い、(b)繰延利息や潜在的なエクイティのアップサイドの獲得が不確実となるリスクです。すべてのPIKが本質的に悪いというわけではありませんが、マネージャーにおいては、引き続きこれらの動向を注視することが極めて重要です。
このレポートは、オークツリー・キャピタル・マネジメントが発行するインサイト「Performing Credit Quarterly」の一部を抜粋したものです。
レポート全文は、同社ウェブサイトでご覧いただけます(英語のみ)。
脚注
1. Oliver Wyman、Private Credit’s Next Act、2024年4月。5.5兆ドルは米国の資産担保融資市場の規模であり、不動産を除きます。
2. 米大手銀行における普通株式等Tier 1(CET1)資本要件の平均値、連邦準備制度理事会の銀行持株会社に対する資本枠組みより。
3. ブルッキングス、FDIC、2024年3月。
4. ムーディーズ、2023年2月。
5. Oliver Wyman、Into The Great Unknown For Wholesale Banking、2023年通年見通し。
6. プレキン、2024年3月。
7. 全米保険監督官協会(NAIC)Capital Markets Special Report.
8. バンク・オブ・アメリカ、2024年3月時点。
9. 米国労働省。
10. ピッチブック。
11. ピッチブック、2023年。
12. ピッチブック。
13. クリフウォーターBDCインデックス、2024年10月18日時点。
14. KBRA DLD ダイレクト・レンディング・インデックス、直近12か月のデフォルト率。
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