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上場実物資産に有利な環境へと変化金利上昇環境の中、利払いの柔軟性を高めるためにPIK(繰延利息)を利用する借り手が増えています。PIKを利用することで、借り手は現金以外の方法で利払いを行うことが可能となります(図表5)。最も一般的な方法は、借入総額に利払い分を加算するというものです。ローン債務を履行するためにPIKを利用する借り手の増加は市場ストレスの発露とみなされることが多く、従って貸し手のリスクが高まっていると解釈されます。しかしながら、実際はそんなに単純な話ではありません。借り手がPIKを利用したかどうかだけでなく、なぜPIKを利用するようになったのか、また、基盤となる事業が健全かどうかを理解することが重要となります。例えば、PIKを利用する借り手の中には、基礎となるビジネスモデルが順調に稼働しているにもかかわらず、初回の事業向け資金調達の際に融資実行時点からPIKを利用する場合もあります。一方で、融資期間中に事業が暗礁に乗り上げたり、利払い能力を失うなど、契約修正としてPIKを利用するケースもあります。後者の場合でも、将来的に支払いを再開できる可能性があり、多くの場合、そうなるリスクを取る価値はあります。
すべての投資において重要な点は、リスクと機会のバランスを取ることであり、PIKも例外ではありません。例えばPIKは、未払い利息を支払う手段として、現金の代わりに株式や優先株の形をとる場合もあります。PIKは、流動性の問題に直面している企業が現金を手元に温存するのに役立ちますが、元本に加算される利息の金利が高くなります。また、PIKが株式の形をとる場合、株主資本が希薄化する可能があります。貸し手にとってのリスクは、未収利息を回収できないことでしょう。一方、貸し手にとってのプラス面は、PIKがローンの利回りを高め、リターンを押し上げる可能性があることです。一部のPIKは概ね大きな懸念材料とはみなされないものの、債務負担を増加させることでローンの潜在的なリスク性を高める可能性があります。従って、ポートフォリオに内在する問題を示唆する1つの指標となり得ることから、注視に値するトレンドであることは間違いありません。
金利が高止まりする中、各企業とも債務の維持に四苦八苦しているため、PIKの利用は今年から2025年にかけて増加するとS&Pグローバル・レーティングは予測しています。今後借り換えが必要となる上場・非上場債券の量は膨大であり、このことがPIKの利用増を後押ししています。しかし、借り手の中には、シンジケート・バンクローンによる資金調達に苦労するかもしれません。というのも、バンクローンのほとんどはCLO(ローン担保債権)に売却されるからです。一般的に、CLOはPIKファシリティで資産の5%以下しか購入できず、現在PIK利息を支払っている資産を購入することはできません。借入が割高になり、銀行融資が鈍化したため、CLOの発行も減少しています。
こうしたことから、今後、プライベート・クレジットのソリューションによる資金調達を求める借り手の数はさらに増えていくことが予想されます。PIKの利用が増えるにつれ、投資家は恐らく、景気サイクルをうまく乗り切ってきた実績のあるマネージャーと協力することの重要性、そして、ポートフォリオでPIKのような機能をいつ、どのように利用するかについて慎重に検討することの重要性を、再確認することになるでしょう。