マーケット / プライベート・エクイティ
運営強化で実現するPE投資の価値創造
2025年3月10日

ほぼすべての面において、プライベート・エクイティ市場では2025年以降も堅調な取引活動と好調なパフォーマンスが予想されます。金利は低下基調にあり、バリュエーションは安定しており、アセットオーナーは数年前よりも売却に前向きになっています。

一方で、成功の方程式は変化しています。パンデミック前のゼロに近い金利水準を大幅に上回る状態が続く可能性が高いことから、PEマネージャーは数年前のように、安価なデットに大きく依存することで案件取引を実行し、資産価値を引き出すことが難しくなるでしょう。つまり、金融エンジニアリングが今後、より困難になるということです。

超過収益を上げるためにPEマネージャーが採用すべき重要な戦略は、これからはむしろ、オペレーションのノウハウになると当社は考えています。価値を創出するためには、マネージャー自身が現場に深く入り込み、ポートフォリオ企業の製品ラインアップ、組織・人材、製造オペレーションまで掘り下げて改善に取り組む必要があります。


オペレーション改善のカギとなる3つの戦略
 

過去10年間にわたり、資産を購入する際に多くのプライベート・エクイティ・マネージャーが低コストのデットを活用してきました。金融市場が上昇すると、買収された企業の収益も同様に増加するケースが多く見られました。このアプローチでは、マネージャーはマルチプル拡大によってリターン上昇という恩恵を受けてきたわけです(図表1を参照)

過去10年間、多くのPEマネージャーは、低金利の借入を活用して資産を取得してきました。金融市場が上昇する中で、買収先企業の売上も増加する傾向がありました。このような戦略により、マルチプル拡大を通じてリターンを生み出すことが可能となってきました(図表1)。

図表12013年から2023年にかけては、マルチプル拡大が価値創造を牽引してきた
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世界のバイアウト案件における価値創造ドライバー(指数化中央値)

出所:CEPRESデータを基にディールエッジ作成、ベイン・アンド・カンパニーの分析。

しかし、コロナ禍に各国中央銀行がインフレ抑制のために積極的に利上げを行ったことで、この戦略は機能しなくなりました。「フリーマネー」の時代は終わったのです。マネージャーは、リターンを得るためにより積極的に取り組むことで、マージン拡大(マルチプル拡大ではない)に注力せざるを得なくなりました。

現在の環境でマージンを拡大し、超過リターンを生み出す最も効果的なアプローチは、ポートフォリオ企業の業務改善を大幅に進めることです。最近金利は低下しましたが、依然として高水準にあり、したがって、PEマネージャーは引き続き、ポートフォリオ企業のオペレーション強化に重点を置く必要があります。しかしながら、このアプローチを効果的に実施するには時間がかかるうえ、長期的な実績が必要となります。

オペレーション改善に向けて重点的に取り組むべき3つの重要な分野は、次のとおりです:

  • 商業戦略:対象企業の製品やサービス、グローバルな販売地域、買収戦略、そしてガバナンスの実践について、徹底的な見直しを実施する。最良の経営を行っている企業でも、価格設定の見直し、高品質な成長投資への注力、そして市場へのアプローチの最適化など、改善の余地は存在します。
  • 組織構造:企業の事業戦略と一致する組織構造を整え、企業階層や人員配置を最適化し、強力な経営陣を配置します。
  • 製造オペレーション:業界最高水準のプロセスを導入し、生産性を向上させ、固定費を削減することで、高品質な製品を競争力のあるコストで生産できるようにします。

経験上、運営担当チームはPE企業の投資チームと対等の立場に立つべきであり、買収対象との最初のミーティングから事業売却の日まで緊密に連携すべきであると考えます。

運営の専門家は、企業のパフォーマンス向上において重要な役割を果たしますが、私たちはまた、人工知能(AI)技術が、これらの3つの重要戦略を実行する能力を高めることにも注目しています。AI技術は、高付加価値のワークフローに集中、製造プロセスの最適化、コンピュータコーディングの自動化、マーケティング計画の立案、企業データを活用してビジネス戦略を強化、管理業務の支援といった形でマネージャーを支援します。


注目セクター
 

ほぼすべての事業セクターに投資機会は存在しますが、現在および今後数年間で最も価値をもたらすと思われるセクターは、産業セクターと金融インフラセクターの2つです。産業セクターは資本財および産業用部品メーカーが市場の約半分を占めており、包装、特殊化学製品、航空宇宙用建築資材などのいくつかの大きなサブセクターが残りの半分を占めています。

過去3年間にわたる米国企業の取引低迷により、PE投資の機会が積みあがっています。特に、労働力不足への対応と効率性の向上を目指し、AIツールやロボット工学を活用した技術システムのアップグレードに多額の資本が必要とされる産業セクターでは、その傾向が顕著です。近年、地政学的な緊張が高まる中、多くの産業セクター企業は製造工程を「国内回帰」させるために多額の投資を行い、サプライチェーンの短縮と強化を図ってきました。今後、産業企業がこうした取り組みに必要とする資金の多くを、PEマネージャーが提供するようになると当社は見ています。

また、産業セクターに属する多くの企業が売却を検討していたり、積極的に事業売却を行ったりしていることも分かっています。加えて、公開市場における潜在的な買い手は、これらの資産の取得にほとんど関心を示さないことが多く、PEマネージャーが売り手に融資オプションを提示する機会が増えています。

金融インフラ・セクターにも、オンライン決済システムから送金事業、資産管理プラットフォームに至るまで、PE投資の魅力的な機会が存在します。企業や個人は、世界中のどこからでも、あらゆるデバイスでより迅速かつ頻繁に取引を行いたいと考えています。しかし、このインフラを支える基幹部分の多くは依然としてアナログシステムで運営されており、この分野における世界の資産の多くは、旧来のアナログシステムを新時代のデジタル運用に転換する専門知識を持たない従来型の金融企業によって保有されているのが現状です。

グローバル金融システムの主要な構成要素はまさに転換期を迎えており、資金移動を担うビジネスを支えるために、多額の資本、オペレーションの専門知識、傑出した知識と経験が不可欠となっています(図表2)。約3兆ドル2に上ると推定される金融インフラの投資機会は、グローバル金融経済の重要な基盤となる事業全体に及ぶうえ、これらの金融プラットフォーム、ソフトウェア開発事業者、必要不可欠なデータサービス・プロバイダーの多くは、高品質なオペレーションを行っている企業です。

図表2:アナログからデジタルへの進化には、多額の資本と運営の専門知識が必要
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アナログからデジタルへの進化

出所:FIS、「2023年のグローバル決済レポート」、20239月。ローランド・ベルガー、「現実世界の資産のトークン化」、202310月。スタティスタ、「2018年から2030年の世界の銀行暗号化ソフトウェア市場」、202311月。IDC、「世界のGenAIコアIT支出」、202312月。

産業セクターと金融インフラ・セクターに属する企業が事業売却を検討する中で、現在および今後数年間においてPEマネージャーが採用していく主要戦略のひとつが企業カーブアウトになると当社は見ています。企業カーブアウトでは、親会社が事業部門、事業部、または子会社をプライベート・エクイティ企業に売却します。その後、PEマネージャーは、売却された事業を独立した事業体として「立ち上げる」ために、抜本的な措置を講じます。製品ラインのアップグレード、戦略の改善、製造業務の合理化、新しい経営陣の招聘などによりオペレーションを改善することで、分離された事業の効率性を大幅に向上させ、売上を増加させ、利益率を拡大させることが可能となります。

これらの両セクターにおいて最も効果的なPEアプローチは、必要不可欠な製品やサービスを販売し、市場で圧倒的なシェアを占め、継続的な収益を生み出している企業を見極めることだと当社は考えています。マージンの高い事業を展開する業界のリーダーであるこれらの企業の多くは、コスト削減や効率化の機会を見落としていることがよくあります。あるいは、親会社が時間をかけて複数の事業を買収したものの、それらを企業全体の構造に効率的に統合することができなかったのかもしれません。このような場合、オペレーションに精通し成長と効率性を高める戦略を持つPEマネージャーであれば、これらの売り手が投資オファーに前向きであることに気づく可能性が高いでしょう。


注目する地域
 

米国は依然として世界最大のプライベート・エクイティ市場であり、特に産業セクターを中心に、ほぼすべてのセクターにおいて最も多くの機会を提供しています。米国の製造業は、企業が生産能力を海外に移転するために国際的なサプライチェーンへの依存を強めたため、数十年にわたって成長が停滞しました。その結果、米国の製造業では資本投資と労働生産性が低下し、それに伴って競争力も低下しました。

今日、こうした傾向は逆転しつつあります。テクノロジーが進歩し、地政学的な緊張が高まるにつれ、多くの米国の産業が国内の製造能力を再構築できることに気づき始めています。自動化、ロボット工学、機械学習の急速な導入により、効率性が向上し、コスト削減、廃棄物の削減、熟練労働者の不足の緩和、そして国際競争力の向上が実現しています。プライベート・エクイティは今後、これらの目標を達成するために必要な資本の多くを提供することになると当社は見ています。

欧州は、PEマネージャーにとって多くの資産が利用可能でありながら、見過ごされている地域であると当社は考えています。特に、欧州に本社を置くグローバル企業への投資には魅力的な機会が散見されます。これらの企業の強みは顧客基盤と生産拠点が世界に広がっていることで、目まぐるしく変化するグローバル貿易の力学からの影響を効果的に回避しており、その多くは、運営改善による生産性と効率性の向上でさらに強くなることが可能です。複雑さを増す貿易環境においては、奥行きの深い産業専門知識と、大規模な資本的支出要件に対応する能力が求められると当社は考えています。

アジア太平洋地域ではますます統合が進んでおり、魅力的な機会が見受けられます。サプライチェーンの継続的な変化を踏まえ、資本だけでなく、オペレーション・ノウハウや経営陣の強化、ベストプラクティスの導入を求めるアジア全域の企業において、買収の機会があると当社は見ています。

最後に、PE業界で急速に台頭し、注目を集めている地域が中東です。湾岸協力会議(GCC)は、人口増加、大規模なインフラ投資、貿易関係の拡大により、国内総生産(GDP)が大幅に増加しています(図表3)。また、GCCが掲げる石油依存からの脱却を目指す戦略的計画は、この地域での経験を持つ民間資本のプロバイダーに機会をもたらしています。

図表3:中東のGDPは堅調に成長中
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中東GDP

出所:IMF WEOデータベース。

当該地域の産業が石油以外に多様化していることから、各国政府はサプライチェーンのデジタル化とローカライゼーションを取り入れたサービス産業を基盤として経済を再構築する「ビジョン計画」を策定しています。このような傾向は、特にビジネスおよび消費者向けサービス、工業、テクノロジー、ヘルスケアの各セクターにおいて、これらのビジョン計画で強調されているイニシアチブに資金を提供する、実質的な運営知識を持つ「付加価値」型の民間資金プロバイダーに膨大なチャンスをもたらす可能性があります。


不確実な局面におけるリスク回避
 

株式市場における公開企業のバリュエーションは、特にテクノロジー企業を中心に、過去最高値付近で推移しています。金利は低下傾向にあるもののインフレ圧力が依然として残っているため、中央銀行による追加緩和は経済圏によってばらつきがあり、緩やかなものになる可能性が高いでしょう。貿易摩擦やその他の介入主義的政策が実施される可能性も、インフレ再燃の可能性を高めています。増え続ける政府債務の負担と、その債務に対する利払いも、成長を妨げる可能性があるもう一つの重要なトレンドと言えます。

これらのリスクは現実に存在するものであり、真剣に受け止められるべきですが、プライベート市場のバリュエーションは近年、実際には横ばいか下落傾向にあることに当社は注目しています。そして、豊富な資金力と資本へのアクセスを持ち、運営改善の実績を長期的に積み重ね、変化する市場状況下での潜在的なパフォーマンスを見極めるためにすべての投資案件について厳格なデュー・ディリジェンスを実施しているPEマネージャーとともに投資を行うことが重要だと、当社は考えます。

金利は上下し、市場は変動し、政府の政策は年々変化します。短期的な雑音に惑わされず、ポートフォリオ全体に対してオペレーション・ノウハウを発揮するPEマネージャーは、長期的に高いリターンをもたらす最良の投資機会を提供することが可能です。

 

 

脚注

1. 企業価値はエントリー時に指数化。エントリー年別の完全実現および部分実現のグローバル・バイアウト案件を含む。投下資本が50百万ドル以上の案件を含む。不動産は除外。すべての数値は米ドルで算出。

2. ブルックフィールド社内調査。

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